大手企業が見ている「安心」と「暮らしを続ける力」
こんにちは。
ブランディングデザイン事務所アルジュナのササダです。
前回、「Z世代のブランド感覚 “選ぶ理由”が変わってきている気がする」という記事を書きました。https://arjuna.ne.jp/blog/1841/
この記事を書きながら、Z世代のブランドの見方は、昔のような「安いから」「機能がいいから」だけでは説明しにくくなっているなと感じました。もちろん、価格や機能は大事です。ただ、それだけで選ばれるというより、そのブランドに共感できるか、自分の感覚と合っているか、誰かに話したくなる余白があるか。そういう、少し言葉にしにくい部分が、選ぶ理由になってきている気がします。
そのことを考えていたら、ふと逆側の世代のことが気になりました。
若い世代の「選ぶ理由」が変わってきているなら、団塊世代より上の方々にも、その世代ならではの「選ぶ理由」があるはずです。けれど、そこを考える時に、僕たちはつい「シニア」という言葉でまとめてしまう。
正直に言うと、僕自身も仕事の中で「シニア向け」という言葉を何気なく使ってしまうことがあります。便利な言葉ではあります。でも、便利すぎる言葉でもあるなと思います。60代もシニア、70代もシニア、80代も90代もシニア。そうやって一括りにした瞬間に、その人たちがどう暮らしていて、何に不安を感じていて、何を大事にしているのかが見えにくくなる気がするのです。
60代と80代では、見てきた時代も違います。スマホとの距離感も違いますし、お金の使い方、家族との関係、健康への不安、買い物の仕方も違うはずです。にもかかわらず、広告やサービスの言葉では「シニアの皆さまへ」とまとめられてしまう。そこに少し雑さを感じます。
今回は、いわゆる「シニア市場」全体ではなく、もう少し絞って、団塊世代より上の世代について考えてみたいと思います。団塊世代は、一般的に1947年〜1949年ごろに生まれた世代とされています。2025年には、その団塊世代の方々が全員75歳以上になります。(子どものお迎えや面倒をお願いしている義母も75歳です。)では、その上の世代、つまり今の80代、90代に近い方々は、どんな感覚で商品やサービスを見ているのでしょうか。
ここを丁寧に見ていくと、マーケティングやブランディングで大事にすべきことが、少し違って見えてきました。
「便利です」と言われても、すぐには安心できない
新しいサービスを紹介する時、企業はよく「便利」「簡単」「早い」という言葉を使います。僕自身も、その言葉には弱いです。申し込みが3分で終わるとか、スマホで完結するとか言われると、たしかに少し気持ちが動きます。面倒なことは、できれば少ない方がいい。
でも、この「便利」という言葉は、使う人によってかなり意味が変わる言葉だと思います。
たとえば、「アプリで注文できます」「スマホで確認できます」「オンラインで手続きできます」という説明は、使い慣れている人にとっては便利な案内です。けれど、スマホやアプリに苦手意識がある人にとっては、それが便利さではなく、不安の入り口になることがあります。途中で分からなくなったらどうするのか、間違えて注文したらどうなるのか、誰に聞けばいいのか。サービスの良し悪し以前に、使い始める前のハードルがあるわけです。
僕はここに、企業側と生活者側のズレが出やすいと思っています。企業側は「手間を減らしました」と言っている。でも、生活者側は「聞ける人が減りました」と感じているかもしれない。ここを見落とすと、せっかく便利にしたはずのサービスが、逆に遠いものになってしまう。
情報通信研究機構(NICT)がまとめている「高齢者のインターネット利用率」を見ると、年齢が上がるほどインターネット利用率は下がっていきます。社会全体がデジタル化しているからといって、すべての生活者が同じスピードで移行しているわけではありません。
参考:NICT「高齢者のインターネット利用率」
https://www.nict.go.jp/info-barrierfree/relate/statistics/elder_net.html
もちろん、「高齢者はデジタルが苦手」と決めつけたいわけではありません。スマホを使いこなしている高齢者もたくさんいますし、逆に若い世代でも新しいサービスに不安を感じる人はいます。ただ、年齢が上がるほど、生活に関わる手続きやお金、健康、家族に関することには慎重になりやすい。そこを無視して「簡単です」と言い切ってしまうと、言葉だけが先に行ってしまいます。
僕がもしこの世代に向けたサービスの言葉を考えるなら、「便利になりました」と最初に言うより、「困った時はここに聞けます」「電話でも確認できます」「家族と一緒に手続きできます」という安心の情報を先に置きたいと思います。
便利さは、安心があって初めて伝わる。
この順番を間違えると、どれだけ良いサービスでも生活の中に入っていきにくい気がします。
高齢者市場を「大きい市場」とだけ見ることへの違和感
日本はすでに、高齢者の割合がとても高い社会です。内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、日本の高齢化率は2024年時点で29.3%となっています。
参考:内閣府「令和7年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/zenbun/07pdf_index.html
この数字を見ると、高齢者向けのマーケティングは、医療や介護だけの話ではなくなっていると感じます。食品、住宅、交通、金融、小売、外食、旅行、日用品、地域づくり。もっと言えば、広告やデザインの仕事も、高齢者の生活感覚と無関係ではいられません。
消費者庁の「令和5年版 消費者白書」でも、高齢者の消費行動について整理されています。世帯主が65歳以上の世帯は多く、食料、保健医療、交際費など、生活に関わる支出も大きなテーマになっています。
参考:消費者庁「令和5年版 消費者白書」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2023/
ただ、こうした数字を見た時に、「高齢者市場は大きい。だから狙いましょう」とすぐに言ってしまうことには、少し違和感があります。
もちろん、市場規模を把握することは大切です。ビジネスとして考える以上、数字は避けられません。けれど、数字だけで見ると、その先にいる人の生活が見えなくなることがあります。市場としては大きくても、そこにいるのは、ずっと使ってきたものを大切にしている人かもしれないし、新しいものに慎重な人かもしれないし、家族にすすめられて初めて検討する人かもしれません。
高齢者市場は、大きいから売れる市場というより、信頼を積み重ねないと選ばれにくい市場なのだと思います。
僕は、ここが若い世代向けのマーケティングとは少し違うところだと感じます。若い世代向けでは、話題性や新しさ、共感のスピードが大事になることがあります。一方で、団塊世代より上の方々に対しては、急に話題になることよりも、ちゃんと説明されていること、聞いたことのある会社であること、家族にも説明しやすいことの方が大切になる場面が多いのではないでしょうか。
派手なキャンペーンより、分かりやすいパンフレット。
新しいアプリより、困った時につながる電話番号。
一回の広告より、何度も安心を積み重ねる接点。
少し地味に見えるかもしれませんが、この地味さこそが大事なのだと思います。
「若々しく」という言葉が、少しずれて見える時がある
シニア向けの商品やサービスを見ていると、「いつまでも若々しく」という表現をよく見かけます。前向きで明るい言葉ですし、決して悪い表現ではありません。
ただ、僕はこの言葉を見るたびに、少しだけ立ち止まります。
本当に欲しいのは、若々しく見えることなのだろうか。
もちろん、若く見られてうれしい人もいると思います。でも、団塊世代より上の方々にとっては、それ以上に「今の暮らしをできるだけ続けたい」という気持ちの方が切実なのではないかと思うのです。
自分で買い物に行きたい。
自分で食事を選びたい。
家族に必要以上に心配をかけたくない。
住み慣れた家で、もう少し暮らしていたい。
こうした願いは、派手ではありません。でも、生活にとても近い願いです。
たとえば、段差をなくすこと、やわらかい食事を選ぶこと、見守りサービスを入れること。機能だけで見ると、それらは「できなくなったことを補うもの」に見えます。でも、見方を変えれば、「自分らしい暮らしを続けるための工夫」でもあります。
僕は、この言い換えがとても大事だと思っています。
「できないことを補います」と言われると、少し寂しい。
「今の暮らしを続けるために整えます」と言われると、少し前向きになれる。
同じ機能でも、受け取る気持ちはまったく違います。ここに、ブランディングの役割があります。機能を説明するだけではなく、その機能が生活者の気持ちをどう支えるのかまで言葉にすること。本人の自尊心を守りながら、家族の不安も少し軽くすること。商品やサービスそのものよりも、それを使った後の暮らしを想像できるようにすること。
高齢者向けのマーケティングでは、こうした細やかな言葉の置き換えが、思っている以上に重要なのだと思います。
イオンの取り組みを見て感じた「家族の不安」への視点
高齢者向けのサービスを考える時、実際に使う人と、調べたり契約したりする人が違うことがあります。見守りサービスを使うのは親世代でも、探しているのは子ども世代。介護食を食べるのは本人でも、買っているのは家族や介護する人。こういう構造は、これからますます増えていくと思います。
イオンリテールの「MySCUE」は、その意味で興味深い取り組みです。
MySCUEは、シニアケアや介護に必要な情報、商品、サービスにアクセスしやすくするための取り組みで、高齢者本人だけではなく、家族のシニアケアや介護に関わるケアラーも対象にしています。
参考:イオンリテール「ケア活」を家族のライフステージに
https://www.aeonretail.jp/pdf/250616R_1.pdf
僕がこの取り組みを見て面白いと思ったのは、「介護が始まってから」ではなく、「まだ介護ではないけれど、そろそろ気になっている」という段階を見ているところです。
この段階は、言葉にしにくいものです。親の体力が少し落ちてきた。離れて暮らしているので、何かあった時が心配。本人はまだ大丈夫と言っているけれど、家族としては準備しておきたい。でも、いきなり介護サービスを調べるほどではない。こういう曖昧な不安は、多くの家庭にあるのではないでしょうか。
僕自身も、仕事の中で「本人より家族の方が先に不安を感じている」場面を見ることがあります。本人は「まだ大丈夫」と思っている。でも、子ども世代は「本当に大丈夫だろうか」と思っている。その間にある感情は、かなり繊細です。
ここで強引に「介護の準備をしましょう」と言いすぎると、本人には少し重く聞こえるかもしれません。一方で、何も言わなければ家族の不安は残ったままです。
だから、高齢者マーケティングは本人だけを見ていても十分ではありません。本人には「今の暮らしを続ける安心」を、家族には「離れていても少し安心できる仕組み」を伝える必要があります。
この二重の視点を持てるかどうかが、これからのシニア向けサービスでは大きな差になる気がします。僕としては、この「本人の気持ち」と「家族の気持ち」の間をどうデザインするかに、とても興味があります。
コンビニが「家まで来る」ことを、生活の目線で見直す
セブン‐イレブンの「7NOW」は、セブン‐イレブンの商品を最短20分で届ける宅配サービスです。食品や飲料、日用品など、約3,000アイテムから選んで注文できるとされています。
参考:セブン‐イレブン「7NOW」
https://www.sej.co.jp/services/7now/
このサービスを普通に見ると、忙しい人や若い世代向けの便利な即時配送サービスに見えます。仕事中に飲み物や軽食を頼む、外に出たくない時に日用品を届けてもらう。そういう使われ方がまず浮かびます。
でも、高齢者の暮らしに置き換えてみると、別の意味が見えてきます。
雨の日に外へ出なくていい。重いものを持たなくていい。体調が悪い日に無理をしなくていい。離れて暮らす家族が、親の家に必要なものを届けられる。こう考えると、コンビニは「近所にある便利なお店」から、「暮らしの近くまで来てくれるインフラ」に変わりつつあるのかもしれません。
僕はここに、コンビニの見え方が少し変わる面白さを感じます。
若い人にとってのコンビニは、便利で早い場所かもしれません。けれど、高齢者にとっては、近所にある安心感そのものになることがあります。いつもの場所にあること、見慣れた商品があること、必要な時に頼れること。それは単なる小売ではなく、生活の一部です。
年齢を重ねると、買い物そのものの意味が変わります。若い時なら少し面倒なだけだった距離が、年齢を重ねると大きな負担になる。車を手放した後、スーパーまでどう行くのか。夏の暑い日や雨の日に、重い荷物をどう持って帰るのか。こうした日常の小さな困りごとは、本人にとってはかなり切実です。
一方で、デリバリーサービスにはデジタルの壁もあります。アプリで注文する仕組みだけでは、80代以上の方に届きにくい場面もあるでしょう。そこで家族が代わりに注文できるのか、電話や店頭での案内があるのか、支払いは分かりやすいのか。便利なサービスを、本当に使えるサービスにするには、こうした導線まで考える必要があります。
「届ける」という行為は、ただ商品を運ぶだけではありません。場合によっては、暮らしを続けるための支えにもなります。そこに、大手企業の生活インフラとしての可能性があるのだと思います。
見守りサービスに感じる、安心と監視の紙一重
高齢者向けサービスで、今後さらに広がりそうなのが見守りです。ただ、この分野はとても繊細だと思います。家族にとっては安心でも、本人にとっては「見張られている」と感じることがあるからです。
セコムは、高齢者向けの見守りサービスを複数展開しています。救急通報や駆けつけだけでなく、暮らしをゆるやかに見守るサービスもあります。
参考:セコム「高齢者見守りサービス一覧」
https://www.secom.co.jp/mimamori/
ヤマト運輸の「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」も興味深いサービスです。トイレや廊下など、毎日使う電球を「ハローライト電球」に交換するだけで利用でき、Wi-Fiや工事、特別な操作が不要です。異常を検知した場合にはメールで通知され、依頼に応じてヤマト運輸のスタッフが代理で訪問する仕組みになっています。
参考:ヤマト運輸「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」
https://nekosapo-order2.kuronekoyamato.co.jp/mimamori.html
僕がこのサービスを見て良いなと思ったのは、テクノロジーを前面に出しすぎていないところです。センサー、アプリ、データ管理。そういう言葉は便利さを伝える一方で、人によっては少し身構えてしまうことがあります。
見守りは、機能だけで考えると「異常を検知する仕組み」です。でも、本人の気持ちから見ると、それは自立心やプライドにも関わるものです。家族にとっては安心でも、本人からすると「自分はもう見守られる側になったのか」と感じるかもしれません。
ここが、すごく難しいところです。
だから、見守りサービスは機能の説明だけでは足りません。むしろ大事なのは、どう感じてもらうかです。「あなたを管理します」ではなく、「いつもの暮らしをそっと支えます」と受け取ってもらえるか。「家族が心配しているから仕方なく入れるもの」ではなく、「自分らしく暮らし続けるための備え」として見せられるか。
この違いをつくるのは、言葉であり、デザインであり、サービス全体の佇まいです。
僕は、こういうところにブランディングの本質があると思っています。ロゴや色を整えるだけではなく、相手がそのサービスを受け入れる時の気持ちまで設計する。見守りのようなサービスでは、特にその視点が欠かせません。
介護食を「食べる楽しみ」として見せられるか
食の分野にも、高齢者マーケティングの大事なヒントがあります。
キユーピーの「やさしい献立」は、日常の食事から介護食まで使えるやわらか食で、ユニバーサルデザインフードの基準に準拠したレトルトフードです。
参考:キユーピー「やさしい献立」
https://www.kewpie.co.jp/udfood/
キユーピーのページを見ると、「食べる楽しみをいつまでも」という考え方が出てきます。この言葉は、とても大事だと思います。介護食は、どうしても「できないことを補う食事」に見えやすいからです。
噛みにくいから、飲み込みにくいから、栄養が不足しやすいから。もちろん、こうした機能は必要です。ただ、それだけを前面に出してしまうと、食べる本人にとっては少し寂しいものになってしまいます。
僕が気になるのは、ここでも「できないこと」を起点にしすぎてしまうことです。
噛めないから、やわらかくする。
飲み込みにくいから、とろみをつける。
栄養が足りないから、補う。
機能としては正しいのですが、それだけだと食事がどんどん医療や管理の方向に寄っていきます。でも、本来の食事は、もう少し楽しいものです。季節を感じること、好きな味を選ぶこと、家族と同じ食卓につくこと、「おいしいね」と言えること。そうした時間まで含めて、食事なのだと思います。
味の素も、介護をする方や高齢者、医療・介護関係者に向けた栄養ケア食品の情報を発信しています。
参考:味の素「栄養ケア食品サイト」
https://www.ajinomoto.co.jp/nutricare/index.html
高齢期の食は、健康の話であると同時に、楽しみの話でもあります。だから、介護食を「介護のための食事」としてだけ見せるのではなく、「食べる楽しみを続けるための食事」として伝えることが大切なのだと思います。
同じ商品でも、言い方ひとつで受け取る気持ちは変わります。
「噛む力が弱くなった人のために」だけだと、少し寂しい。
「これからも食事を楽しむために」だと、少し前向きになれる。
この差は、ブランディングとしてとても大きいと感じます。特に食のように、生活の喜びと結びついているものほど、機能だけでなく感情まで丁寧に扱う必要があります。
シニアを「守られる人」と決めつけない
ここまで、高齢者の不安やサポートについて書いてきました。ただ、一方で気をつけたいのは、高齢者を「守られるだけの人たち」と決めつけないことです。
ADKマーケティング・ソリューションズの「ADK生活者総合調査2024」によるシニア調査では、70代の幸福度が全年代の中で最も高いという結果や、50代以上では国内旅行、散歩・ウォーキング、食べ歩き・お取り寄せなどへの関心が高いことが紹介されています。
参考:ADKマーケティング・ソリューションズ「今どきシニアの最新調査」
https://www.adkms.jp/company/column/20241126-2/
この調査を見ると、シニア世代を消極的な存在として捉えるのは違うなと感じます。旅行に行きたい、歩きたい、おいしいものを食べたい、家族や友人と過ごしたい。そういう前向きな気持ちは、年齢を重ねても残っているはずです。
ただし、その楽しみ方には、不安や制約もあります。体力のこと、移動のこと、お金のこと、デジタルのこと、そして家族に迷惑をかけたくないという気持ち。楽しみたいけれど、無理はしたくない。自立したいけれど、いざという時は助けてほしい。
僕は、この「両方ある」という感覚を大事にしたいです。
元気だけど、不安もある。
楽しみたいけど、無理はしたくない。
頼りたくないけど、いざという時は助けてほしい。
こういう矛盾のようなものは、誰にでもあると思います。高齢者だから特別なのではなく、人はみんな、強い気持ちと弱い気持ちを同時に持っています。だからこそ、シニア向けの表現も、「元気なシニア」と明るく言い切りすぎてもずれるし、「支援が必要な高齢者」と重く言い切りすぎてもずれる。
実際の暮らしは、その間にあります。前向きさと不安、自立心と助けてほしい気持ち、その両方を持っているのが自然です。そこを見ようとすることが、これからのシニア向けブランディングには必要なのだと思います。
「高齢者向け」と言いすぎることへの違和感
大手企業の事例を見ていると、「高齢者向けです」と言いすぎないことの大切さを感じます。
もちろん、必要な人に届けるためには、介護、見守り、高齢者向けといった言葉も必要です。ただ、その言葉を前面に出しすぎると、受け取る側に「年寄り扱いされた」と感じさせてしまうことがあります。
ここはかなり繊細です。必要性を伝えたい。けれど、老いを突きつけたくはない。分かりやすくしたい。けれど、子ども扱いはしたくない。
僕は、高齢者向けのデザインやコピーを見る時に、「これは分かりやすいけれど、少し失礼に見えないだろうか」と考えることがあります。文字が大きいことは大切です。色のコントラストがあることも大切です。操作が簡単なことも大切です。でも、それだけで良いデザインになるわけではありません。
見やすいけれど、野暮ったくない。
分かりやすいけれど、押しつけがましくない。
安心できるけれど、古くさく見えない。
この微妙な調整に、ブランドの姿勢が出ると思います。
たとえば、「高齢者向け」という言葉をそのまま使うのではなく、「いつもの暮らしを支える」「家族も安心できる」「これからも自分らしく続ける」といった言い方に変えるだけで、受け取る印象は変わります。
もちろん、表現をやわらかくしすぎて何のサービスか分からなくなっては意味がありません。必要な情報は、きちんと伝える必要があります。ただ、その伝え方に、相手の自尊心への配慮があるかどうか。そこが、すごく大事なのだと思います。
僕はここに、デザインの難しさと面白さがあります。単に大きく、分かりやすくするだけなら、ある程度はできます。でも、相手の気持ちを傷つけずに、必要な情報をきちんと届けるには、かなり丁寧な視点が必要です。
中小企業だからこそ、顔が見える言葉を作れる
大手企業の事例を見ると、つい「規模が違うから」と思ってしまいます。全国の店舗網、配送網、システム開発、膨大な顧客データ。たしかに、中小企業が同じことをするのは難しいです。
でも、考え方は学べます。むしろ、言葉の作り方や伝え方については、中小企業の方が得意なこともあるのではないかと思います。
地域の店舗なら、「高齢者向け商品あります」と大きく打ち出すより、「いつもの暮らしを少し楽にするものを揃えています」と伝えた方が、自然に届くかもしれません。病院や介護施設なら、サービス内容を並べるだけでなく、本人と家族がどんな不安を持って来るのかを整理して見せることができます。食品メーカーなら、「健康にいい」だけでなく、食卓の楽しさや家族との時間まで含めて伝えられるはずです。
住宅やリフォーム会社でも同じです。「バリアフリー工事」という言い方だけでは、少し機能的に聞こえます。でも、「住み慣れた家で、これからも暮らすための整え方」と言えば、少し違って聞こえます。
こうした言葉の違いは、小さいようで大きいです。
そして、この小さな違いを見つけることこそ、地域の会社や中小企業ができるブランディングだと思います。
大手企業のような大きな仕組みは作れなくても、「あの人たちが考えてくれているなら安心」と思ってもらえる関係性は作れます。むしろ、顔が見える距離で仕事をしている会社だからこそ、お客さんの生活に近い言葉を作れる。
僕は、ここに中小企業の強みがあると思います。
大きな市場を狙うのではなく、目の前の人にちゃんと届く言葉を作る。
それが結果として、信頼されるブランドにつながっていくのではないでしょうか。
世代を見ることは、決めつけることではない
前回のZ世代の記事では、若い世代のブランド感覚について考えました。Z世代は、機能や価格だけではなく、共感や価値観、語れる余白を見ているのではないか。そんな話を書きました。
一方で、団塊世代より上の世代には、また違う選ぶ理由があります。安心できるか、信頼できるか、自分にも使えるか、家族に迷惑をかけずに済むか、今の暮らしを続けられるか。こうして並べてみると、どちらも単なる機能比較ではありません。
若い世代には若い世代の不安や期待があり、上の世代には上の世代の不安や期待があります。その違いを丁寧に見ることが、マーケティングやブランディングの出発点なのだと思います。
ただし、世代を見ることは、決めつけることではありません。
ここは、かなり気をつけたいところです。
「Z世代はこう」「高齢者はこう」と簡単に言い切ると、文章としては分かりやすくなります。でも、その分だけ、人の顔が見えなくなります。実際には、Z世代の中にもいろいろな人がいるし、80代の方の中にもいろいろな人がいます。
それでも世代について考える意味があるとすれば、その人たちが育ってきた時代や、今置かれている生活を想像する手がかりになるからです。戦後の暮らしを知っている人、高度経済成長を支えてきた人、家族や地域とのつながりの中で暮らしてきた人。そうした背景を少し想像するだけで、同じ商品でも、言葉の選び方が変わります。
ブランディングは、見た目を整える仕事でもありますが、それだけではありません。誰のどんな気持ちに届くのかを考える仕事でもあります。だからこそ、世代の感覚を丁寧に見ることには意味があるのだと思います。
団塊世代より上の世代に向けたマーケティングで大事なのは、「高齢者に売る」という感覚ではない気がします。
その人が長く続けてきた暮らしを、どうすれば自然に支えられるか。そこから考えた方が、言葉もデザインもやさしくなります。
便利さは大事です。ただ、便利さだけでは不安が残ることがあります。早さも大事ですが、早さよりも「ちゃんと使えるか」の方が大切な場面もあります。
この世代に必要なのは、最新の機能を強く打ち出すことではなく、困った時に聞けること、家族も安心できること、自分の暮らしを奪われないことなのかもしれません。
今回、Z世代の記事から少し離れて、団塊世代より上の方々について考えてみて、改めて思ったことがあります。
世代によって、選ぶ理由は変わります。
でも、その奥にあるのは、どの世代も「自分の感覚を大事にしたい」という気持ちなのかもしれません。
Z世代は、自分の価値観に合うものを選びたい。
団塊世代より上の方々は、自分の暮らしを無理なく続けられるものを選びたい。
そう考えると、ブランディングは、かっこよく見せることだけではありません。誰に、どんな言葉で、どんな気持ちを届けるのか。その人が何を不安に思い、何を大切にしているのか。そこを丁寧に見つめることも、ブランディングです。
高齢者向けではなく、暮らしを続けるためのブランドへ。
これからのシニア市場には、そんな視点がますます必要になっていくのではないでしょうか。
参考・引用元
アルジュナブログ「Z世代のブランド感覚 “選ぶ理由”が変わってきている気がする」
https://arjuna.ne.jp/blog/1841/
内閣府「令和7年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/zenbun/07pdf_index.html
消費者庁「令和5年版 消費者白書」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2023/
情報通信研究機構(NICT)「高齢者のインターネット利用率」
https://www.nict.go.jp/info-barrierfree/relate/statistics/elder_net.html
ADKマーケティング・ソリューションズ「ADK生活者総合調査2024」より『今どきシニアの最新調査』
https://www.adkms.jp/company/column/20241126-2/
イオンリテール株式会社「『ケア活』を家族のライフステージに」
https://www.aeonretail.jp/pdf/250616R_1.pdf
セブン‐イレブン・ジャパン「7NOW」
https://www.sej.co.jp/services/7now/
セコム株式会社「高齢者見守りサービス一覧」
https://www.secom.co.jp/mimamori/
ヤマト運輸「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」
https://nekosapo-order2.kuronekoyamato.co.jp/mimamori.html
キユーピー株式会社「やさしい献立」
https://www.kewpie.co.jp/udfood/
味の素株式会社「栄養ケア食品サイト」
https://www.ajinomoto.co.jp/nutricare/index.html
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