福岡 ブランディング・ブランディングデザイン・パッケージ・ロゴ デザイン事務所 株式会社アルジュナ

インバウンドマーケティングは、外国語にすれば届くのか?

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2026 08.10

/ブランディング /ロゴ(CI・VI) / ネーミング /コーポレートサイト

こんにちは。福岡のブランディングデザイン事務所、アルジュナのササダです。

アルジュナでロゴの相談を受けているのに、なかなかロゴの話に入らないことがあります。

なぜ今、変えたいと思ったのか。これから、どんなお客さまと仕事をしていきたいのか。今のお客さまは、何を評価して依頼してくれているのか。

色や形の話をする前に、そんなことを聞いています。

一見すると遠回りです。早くデザイン案を見たい方からすると、「いつロゴの話が始まるんだろう」と思われるかもしれません。

でも、このあたりが曖昧なままだと、何を基準にデザインを決めればいいのか分かりません。格好いいか、好きか嫌いかという話だけで進み、後から「これで本当によかったのか」と迷うことになります。

Webサイトの相談でも同じです。

「古くなったので新しくしたい」という話から始まっても、聞いていくと、問題は見た目の古さだけではなかったりします。自分たちの強みが整理できていない。誰に向けたサイトなのか、社内でも少しずつ認識が違う。情報はたくさんあるけれど、何から伝えればいいのか分からない。

ページをつくり直す前に、まず考えないといけないことが出てきます。

インバウンドについて考えるときも、これに近いものを感じます。

「英語のページをつくりたい」
「外国語のメニューが必要になった」
「海外向けにSNSを始めたい」

相談は、どうしても“何をつくるか”から始まります。

もちろん、どれも必要です。海外から来た方に情報を届けるのであれば、相手が読める言葉を用意するのは当然だと思います。

ただ、外国語にすれば届くのかというと、たぶん、それだけでは足りません。

誰に来てほしいのか。その人に何を伝えたいのか。実際に来てもらったとき、どんな時間を過ごしてほしいのか。

そこが整理されないまま言葉だけを置き換えても、情報量は増えますが、その店や地域を選ぶ理由までは伝わらないからです。

僕は、インバウンド専門のコンサルタントではありません。海外からのお客さまを何万人集めた、という実績があるわけでもない。

今回は、印刷会社の営業時代から今まで、お客さまと一緒に「誰に、何を、どう伝えるか」を考えてきた経験をもとに、インバウンドマーケティングについて書いてみようと思います。

 

 

「マーケティング」が、よく分からなかった頃

大学を卒業して、最初に入った会社は印刷会社でした。

営業としてお客さまのところへ行き、印刷物を納品したり、校正を受け取ったり、新しい相談を聞いて会社へ持ち帰ったりしていました。

社内に戻ると、編集者やデザイナーに内容を伝え、見積もりやスケジュールを調整します。校了になれば印刷へ進み、完成したものを納品する。

当時勤めていた会社には、印刷会社は頼まれたものを印刷するだけではなく、お客さまのマーケティングや経営も支えられなければいけない、という考え方がありました。

「これからは、マーケティングサポートが必要だ」

そう言われて、僕も分かったような顔をしていたと思います。

でも正直なところ、何をすればマーケティングを支援したことになるのか、当時はよく分かっていませんでした。

パンフレットをつくりたいと言われれば、原稿を預かってパンフレットをつくる。チラシが必要だと言われれば、サイズや部数を確認して手配する。納期に間に合わせ、間違いなく納品できれば、ひとまず仕事は終わったと思っていました。

もちろん、それも大切な仕事です。納期を守ることも、校正の間違いを防ぐことも、印刷物の品質を保つことも、簡単ではありません。

ただ、今振り返ると、本当に考えなければならなかったのは、印刷物の前後だったんですよね。

なぜ、そのチラシが必要なのか。誰に見てもらうのか。見た人に何を感じてもらい、その後どう動いてほしいのか。

もう少し踏み込めば、目的を達成するために、本当にチラシが必要なのかという話にもなります。

当時の僕は、頼まれたものをきちんと仕上げることで精いっぱいでした。

目の前にある印刷物ではなく、その先にいる人を見る。今なら当たり前のように言えますが、それが仕事の中で腹落ちするまでには、ずいぶん時間がかかりました。

 

 

今も、相談は「つくりたいもの」から始まる

アルジュナを始めてからも、お客さまからの相談は、具体的な制作物から始まることがほとんどです。

「ロゴを変えたい」「Webサイトを新しくしたい」「会社案内をつくり直したい」

ただ、同じ「ロゴを変えたい」という相談でも、理由は会社によって違います。

代替わりをきっかけに、これからの会社の姿を表したいのかもしれません。新しい事業を始めるので、今までとは違うお客さまにも知ってもらいたいのかもしれない。採用に力を入れるため、働く人にも会社の考え方を伝えたい、ということもあります。

理由が違えば、当然、つくるものも変わります。

だから、デザインに入る前に話を聞きます。

自分たちは、何を強みだと考えているのか。お客さまからは、どんなところを評価されているのか。これから変えたいことと、変えずに残したいことは何か。

質問をしても、すぐに答えが出るとは限りません。

「そう言われると、何でしょうね」と考え込むこともありますし、少し話が止まることもあります。でも、その時間は無駄ではありません。

話しているうちに、最初にいただいた資料には書かれていなかったことが出てきます。

社内では当たり前になっていること。大切にしているけれど、わざわざ外には話してこなかったこと。お客さま自身も、口に出してみて初めて気づいたこと。

そういう言葉が出てくると、「たぶん、今回の軸はここですね」と、お互いに見えてくる瞬間があります。

その後は、デザインを判断しやすくなります。好き嫌いだけではなく、「自分たちが伝えたいことに合っているか」という基準で話せるようになるからです。

インバウンドの取り組みも、同じ順番で考えたほうがいいと思います。

英語のページをつくる前に、なぜ必要なのか。海外の誰に見てほしいのか。見た人に、まず地域を知ってほしいのか、予約してほしいのか、実際に店まで来てほしいのか。

“つくるもの”が決まっていても、“つくる理由”まで決まっているとは限りません。

 

「外国人観光客」という言葉だけでは、相手の顔が見えない

普段の打ち合わせで、「若い人に来てほしい」「女性に選ばれたい」という話が出ることがあります。

ただ、「若い人」と言っても、みんなが同じ生活をして、同じものを好んでいるわけではありません。

年齢が近くても、仕事や家族構成、使える時間やお金、普段見ているメディアは違います。商品を選ぶとき、価格を優先する人もいれば、つくり手の考え方や背景を重視する人もいます。

そのため、もう少し具体的に聞いていきます。

どんな生活をしている人なのか。今、どんなことに困っているのか。どんな場面で、自分たちの商品やサービスが必要になるのか。

インバウンドでも、「外国人観光客に来てほしい」だけでは、相手の顔が見えてきません。

初めて日本を訪れる人と、何度も来ている人とでは、知りたい情報が違います。

短い滞在で有名な場所を効率よく回りたい人もいれば、一つの地域に長く滞在して、地元の人が普段使っている店を訪ねたい人もいます。食を目的にしている人と、建築や工芸に興味がある人とでは、響く写真も言葉も違うでしょう。

国や地域によって言葉や文化、よく使うサービスが異なるため、国籍は大切な情報です。

ただ、国籍だけで相手を理解したつもりになるのも、少し違う気がします。

なぜ日本を訪れるのか。旅の中で、何を楽しみにしているのか。自分たちの店や地域で、どんな時間を過ごしてもらいたいのか。

そこまで考えて、ようやく伝えるべきことが見えてきます。

「外国人観光客」という言葉は便利ですが、マーケティングを考えるには少し広すぎるんですよね。

 

 

伝えたいことと、相手が最初に知りたいことは違う

お客さまの話を聞いていると、伝えたいことがたくさん出てきます。

創業からの歴史。受け継いできた技術。素材へのこだわり。働いている人の思い。

どれも、その会社や店にとって大切な話です。聞いている僕らも、「これは伝えたほうがいい」と思います。

ただ、すべてを同じ強さで並べると、初めて見る人は、どこから読めばいいのか分からなくなります。

インバウンド向けの情報も同じです。

店の歴史や料理人の思いを読む前に、旅行者が確認したいことがあります。

予約が必要なのか。料金はいくらなのか。どのくらい時間がかかるのか。どんな支払い方法が使えるのか。食べられないものがあっても利用できるのか。駅からどう行けばいいのか。

こうした情報が見つからなければ、店の物語に触れる前に、候補から外れてしまうかもしれません。

かといって、料金や営業時間だけを載せれば十分という話でもありません。

基本的な情報は分かるけれど、ほかの店との違いが見えない。わざわざ足を運ぶ理由が伝わらなければ、価格や距離だけで比較されることになります。

利用するために必要な情報と、その場所を選びたくなる情報。

両方が必要です。ただし、同じタイミングで全部見せればいいわけではない。相手が今、何を判断しようとしているのかを考えて、順番を整える必要があります。

情報が多いことと、親切であることは、必ずしも同じではありません。

このことはWebサイトをつくるたびに感じます。

 

 

翻訳しても、もともと書かれていないことは伝わらない

日本語のWebサイトを、そのまま英語や中国語、韓国語に翻訳する。

多言語対応の最初の一歩としては必要です。ただ、それだけでは伝わらないことがあります。

日本語のページには、日本人同士なら説明しなくても分かると思っていることが、そもそも書かれていないからです。

店に入ったら、最初に券売機で食券を買う。建物に上がる前に靴を脱ぐ。支払いは現金だけ。入口が大通り側ではなく、建物の裏にある。

日本で暮らしていれば、その場の雰囲気や周りの人の動きを見て、なんとなく判断できることもあります。

でも、初めて来た土地で、言葉も文化も違うとなれば、そう簡単ではありません。

日本語の原稿に書かれていないことは、どれだけ正確に翻訳しても、外国語のページには出てきません。

翻訳の前に、自分たちの中にある「説明していない前提」を見つける必要があります。

これが意外と難しい。

自分たちにとって当たり前のことほど、説明が必要だとは気づきにくいからです。

普段、どんな質問を受けているのか。スタッフが毎回、口頭で説明していることはないか。初めて来た人が、どこで立ち止まっているのか。

現場を見たり、接客している人に話を聞いたりすると、日本語の原稿だけを眺めていては分からなかったことが出てきます。

外国語に置き換える前に、伝えるべきことが日本語でも整理されているか。

まずは、そこから確認したほうがいいと思います。

 

 

旅行者から見れば、全部ひとつの店の話

マーケティングというと、広告やSNSなど、人を集めるための施策に目が向きます。

でも、興味を持ってもらった後に迷わせてしまえば、予約や来店にはつながりません。

旅行者はSNSで写真を見つけ、プロフィールからWebサイトへ移動し、料金や営業時間を確認します。地図アプリで場所を調べ、予約ページから申し込み、当日はスマートフォンを見ながら現地へ向かう。

店に着いたら入口を探し、受付を済ませ、商品やサービスを体験する。その後、写真を投稿したり、知人に話したりするかもしれません。

旅行者から見れば、これは最初から最後まで一つの体験です。

一方、つくる側では担当が分かれています。

SNSは広報担当。Webサイトは制作会社。予約システムは別の事業者。現地の案内は店舗スタッフ。

担当が分かれること自体は仕方ありません。ただ、それぞれが自分の担当範囲だけを見ていると、少しずつズレが生まれます。

SNSでは親しみやすい雰囲気だったのに、Webサイトへ行くと急に堅い言葉になる。Webサイトにはアクセス方法が丁寧に書かれているのに、現地には入口を示す案内がない。予約はできたけれど、当日どこへ行けばよいのか分からない。

つくる側には小さなズレでも、知らない土地にいる人にとっては、大きな不安です。

海外に向けて情報を発信することだけが、インバウンドマーケティングではありません。

知ってもらった後、迷わずに選べること。実際に訪れたとき、安心して体験できること。帰るときに「来てよかった」と思ってもらえること。

そこまでを一つにつなげて考える必要があります。

 

 

答えは、資料よりも会話の中にあることが多い

マーケティングを考えるとなると、大きな市場調査や細かなデータ分析から始めなければいけないように感じるかもしれません。

もちろん、データを見ることは必要です。

ただ、すべての答えが外のデータにあるわけではありません。

アルジュナでお客さまの話を聞いていると、用意された資料よりも、会話の途中でふと出てきた言葉のほうが、その会社らしさをよく表していることがあります。

お客さまに言われて初めて、自分たちの強みに気づいた話。効率が悪くても、ずっと変えずに続けていること。売上には直接表れないけれど、社内で大切にしている判断基準。

そういうことは、最初から「私たちの強み」として、きれいに整理されているとは限りません。

話の途中で出てきた言葉を拾い、「なぜ、それを続けているんですか」と、もう少し聞いてみる。その中に、他社との違いや、外に伝えるべき価値が見つかることがあります。

インバウンドでも、まずは現場にある情報を見ることから始められます。

海外から来た人に、何を何度も聞かれているのか。予約前にどんな問い合わせがあるのか。口コミでは、こちらが想定していなかった何が評価されているのか。

店の側が一番の魅力だと思っていることと、実際に利用した人の記憶に残っていることが、違っている場合もあります。

最初から大きな施策を考えるのではなく、今すでに起きていることを丁寧に見る。

地味ですが、そこから始めたほうが、必要なものが見えやすいと思います。

 

 

外国語にする前に、自分たちのことを知る

インバウンドマーケティングというと、海外の人に合わせて、自分たちを変えることのように感じるかもしれません。

でも僕は、自分たちを別のものに見せる仕事ではないと思っています。

自分たちが大切にしていることを整理し、まだ自分たちを知らない人にも理解できる形で伝える。そのために、言葉や写真、Webサイト、予約方法、現地の案内を整えていく。

誰に来てほしいのか。
その人に、何を楽しんでほしいのか。
どこで不安を感じそうなのか。
旅が終わった後、何を覚えていてほしいのか。

このあたりが見えてくると、本当に必要なものも変わります。

立派な多言語サイトをつくることより、建物の入口が分かる写真を載せるほうが先かもしれません。

海外向けの広告を出す前に、予約完了後の案内を見直す必要があるかもしれない。英語で長い紹介文を書くより、料金と所要時間を分かりやすくまとめたページのほうが役に立つ場合もあります。

つくるものを先に決めず、相手がどう動くのかを考える。

これは、僕が印刷会社の営業だった頃には、まだ十分にできていなかったことです。

今も完璧にできているとは思いません。打ち合わせが終わった後に、「あのことも聞けばよかった」と思うことはあります。

それでも、頼まれたものをそのままつくる前に、なぜ必要なのかを考える。なるべく、その先にいる人を想像する。

そこは忘れないようにしています。

海外の人に向けた話を考えていたはずなのに、最後には「自分たちは何者なのか」というところへ戻ってくる。

インバウンドの難しさは、そこにあるのだと思います。同時に、面白いところでもあります。

誰に来てほしいかを考えると、次に気になるのは、その人に何を覚えて帰ってほしいのかということです。

ここから先は、マーケティングだけではなく、ブランディングの話にもつながっていきます。

次回は、海外の方にも分かりやすく伝えながら、地域や店の「らしさ」をどう残すのか。インバウンドとブランディングについて、普段の仕事の中で感じていることをもとに考えてみようと思います。

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